コロナ禍を契機として、中小企業においても事業継続・生産性向上等の観点から、バックオフィス業務のデジタル化の機運が高まっています。また、令和3年度税制改正において、税務署の事前承認の廃止やスキャナ保存の定期検査要件の廃止(スキャン後すぐの原本破棄を認める)など、電子帳簿保存法の大幅な要件緩和が行われました。これにより小規模事業者であっても、安価なクラウド会計ソフトを活用して電子帳簿が利用できる環境が整いつつあります。
会員事業者の皆様が電子帳簿保存法やクラウド会計ソフト等の活用によるバックオフィス業務のデジタル化について理解を深められるよう、専門家による全4回の解説記事を4か月に渡って連載いたします。
今回は第2回です。
【第1回】働き手が2,000万人減る準備はできているか?
【第3回 1月4日ごろ公開予定】
【第4回 2月1日ごろ公開予定】
小売店が毎日タブレットをのぞき込むワケ
「軽減税率対策補助金」の話題が記憶に新しい。消費税率の異なる会計を楽に行うことを目的とし、タブレットレジ・POSレジの導入も補助対象だった。当社への問い合わせも急増し、20台以上の導入支援を行った。
キャッシュレス決済との連携も可能であり、POSレジひとつで小売ビジネスのデジタルトランスフォーメーション(DX)は一気に進めることができる。しかし、目先の“補助金”が目的となってしまい、「補助金があるから導入したい」という問い合わせが大半だった。
しかし、私は粘り強く訴えた。「たかがレジ、されどレジ」「小売店の心臓部分に関わる重要なデジタルツールなんです」「活用すれば、売上アップやコスト削減まで狙えるんです」と。
デジタルの価値は、使ってみれば分かる。つまり、使わなければその価値は分からない。とある土産品店S店も、最初はその価値を深く理解しないままレジ導入を検討していた1社だ。
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S店は大量の土産品を販売している。アイテム点数は500以上。取り扱いをやめたものを含めれば、1,000点以上のアイテム数だ。ここで問題が出てくる。どの商品が売れ筋なのかが分からないのだ。
売り場に立つ従業員からの意見はバラバラだった。「これが売れている」と言う人もいれば、「そんなことはない」と言う従業員もいた。結果、本当に売れているものは何なのかが判断できず、商品の入れ替えができないままずるずると時間が過ぎていた。
そんな中、S店が導入したのは、リクルートが開発している「Airレジ」という、タブレットを活用したPOSレジだ。店舗が広いため、合計で6台のAirレジを導入した。
今まではレジ毎の売上を紙出力し集計していたが、同レジの導入によって、クラウド上で集約して確認することができる。これだけでも随分ミスと負担が減少した。
同時に、死に筋の把握にもメスが入った。今までのレジは「お会計をする」ための仕組みに過ぎなかった。それが現在では膨大な商品1点1点の売れ行きをリアルタイムに、その日のうちに把握できる。月末の棚卸を待つ必要はない。
「売れている」という誤認識は、土産品店ではよく発生する。友人が何かお土産を買うと、連れ添いの人にも芋づる式に売れることが多い。スーパーなどと違い、誰かと一緒に購入するという特殊性がある。その結果、スタッフは「この商品は売れているのでは!」と錯覚してしまうのだ。
しかし、Airレジのデータは嘘をつかない。データに基づいて死に筋商品の仕入れを減らし、売れ筋商品はポップを工夫したりしてもっと売れるように努力する。これだけで利益率はぐんと改善した。
後日S店に伺った際に、何の機能が助かったかと聞いたら、「売れ筋が分かることだ」と断言された。最初は補助金ありきでの導入だったが、今では毎日数字を見る癖がついた、と笑顔が溢れる。頼れる背中に見えた。
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POSレジは、飲食・小売にすさまじいイノベーションを起こす可能性を秘めている。商品別・時間別売上の分析や在庫管理機能まで搭載されたものもあり、アナログなやり方を改善できなかった店舗は、効率化が一気に進むはずだ。
小さいことからコツコツと。小さなデジタル変革を積み重ねていこう。
(つづく株式会社社長 井領 明広)